研究と現実のはざまで

夕方のニュースで各社京都大学山中教授のインタビューを放送していた。

「研究のための研究ではない」
「医療に貢献する開発を」

蚊帳の外の我々はそのとおりだと思う。
でも研究の世界に一歩はいると、この意識を持ち続けることの難しさに直面する。

山中教授は「9回失敗して1回成功する、泣きたくなるような20年でした。」と答えていたが、実際は数百失敗して1成功するの方が真実に近い。それぐらい生物の世界は厳しい。


ノイローゼになりそうな環境の中で、周りからそんなの実現するんか?という疑心を持たれながら、歯を食いしばって研究室にこもる生活は、少し気を抜けば崖から転げ落ちるような綱渡りの日々である。
いくら医療のためといっても、論文がでなければ、見向きもされない。
医療のためにまず研究のための研究をせねば・・・という気持ちに傾いてもおかしくはない。

それでもひたすら医療のために と諦めずにつき進んだ原動力は、まさしく山中教授の臨床経験であった。
強烈な挫折こそ、石にかじりついて離れない強靱な精神を作る。
さらに、家族を持つこと、スポーツをすること、文化を楽しむことといった多様性が、へこたれた精神を元に戻すのに大きく寄与したと思う。

偉業は、一つのことだけをやっていても為し得ることができない。
人生は山あり谷ありで、谷のときは谷に見合ったケアが要求される。
だからこそ本業を外れた所に価値があるんだ。

山中教授は偉そぶったところのないすばらしい人柄だと思う。
その人柄は、様々な分野のいい所を吸収した故の柔らかさだ。

人生に無駄なものはない。
そう、教授は我々に教えてくれている。