言葉の理解の難しさ

村上春樹さんが河合隼雄物語賞・学芸賞を記念した企画で講演し「僕が物語という言葉を使うとき、イメージすることを本当に正確な形で、丸ごと受け止めてくれた人は河合先生しかいなかった」と述べた。

臨床心理学者と作家という、共に言葉を介して人の深い所と接する職業の二人だったからこそ、言葉に対し真摯に向き合い、相手の表したかった中身を安寧に探し求め、共有の境地にたどり着いたのであろう。

我々が何気なく使う言葉は、その使われ方の適切さや、聞き手の背景を考慮した意味等、深く検討されぬまま放出されている。
そして無手当なまま放出されることに危機感を抱く者は少ない。
思いのまま放出して、相手に適切に伝わらなければ、己を省みることなく「ありえない」「使えない」といった排他言語で、一刀両断する。
人と分かち合うための言葉が、いつのまにか自分を押し切るための言葉に様変わりしているようである。

そのような者ばかりで溢れるからこそ、村上さんは「河合先生しかいなかった」と表現した。
もしかしたら、「皆さん、もっと言葉に繊細になってくださいね」というアイロニカルが込められていたのかもしれない。