カウンセリングが成功するための条件

ー患者さんにはカウンセリングを受けてもらう以上、効果を出したいー
そう思わぬカウンセラーなどいないでしょう。

けれど実際は患者さんに振り回されて、後手後手に回ってしまい、ただのおしゃべりになっていることがあります。
そうならないように、カウンセラーは問題の構造を見つけ出す努力をし続けなければならないと思います。

患者さんにひっぱられたある例

初めてこられた患者さんは、うつ病で休職中。給与は健康保険組合から傷病手当として基本給の6割が支払われています。しかし手当を受け取れる期間も残り僅かとなり、継続的にカウンセリングを受ける財力を持っていません。
そこでカウンセラーに「働きたいけど、働けないんです。お金もそのうちなくなります。どうしたらいいでしょう?」と尋ねました。

その言葉にひっぱられたカウンセラーは、「そうはいっても、我々はボランティアではないので、お金がない方の依頼はお受け出来ません。簡単なアルバイトをされたらどうですか?」と答えました。
患者の答えは、もちろん「No」。とてもじゃないが、その答えには満足できませんでした。

結局初回でカウンセリングは打ち止め。有効な回答を期待した患者さんは、カウンセリングに不信感を抱いたまま、その場を後にしたのでした。

このときカウンセラーはどう返せば良かったのでしょうか?

有効なカウンセリングとは

このカウンセラーが陥った罠は、話の内容に関心を奪われたことにあります。

患者さんが訴えてくる窮状にいい回答を出そうとして、出せなくて、安易な回答で話を終わらせようとしている。
自分を「答える人」と定義してしまっています。

ですが、カウンセラーは万能な回答など持ち合わせていません。ですから、元々答えられないのです。
答えられるとすれば、「なぜその出来事が窮状を生んだか」です。

今回の場合で言えば、患者さんは「お金は支払えないけど、カウンセリングは受けたい」という矛盾が悩みです。同時に成り立たないものを、無理に成り立たせようとするから、追い込まれる。
まず、自分が矛盾していることを訴えてることに気づくことです。

構造的対立に対処するとき真っ先に取り組むべき重要な課題は、構造的対立が作用しているときに、その構造的対立、およびその結果生じている行動を認識することだ

学習する組織 ピーター・M・センゲ

おそらくこの患者さんはカウンセリングだけでなく、他のことにも矛盾した考えを持っています。
自分は努力して資格を取るのは嫌だけど、会社からは評価されたい、であるとか
ダイエットもセンス磨きもしたくないけど、とびきりの美女と付き合いたい、とか。

煩悩にまみれた人間ですから、別に矛盾した思いを持ってたっていいんです。
矛盾しているってことを認識できてさえいれば。

「努力しないから、望みが叶わない」と認識しているなら、「虎穴に入らずんば虎児を得ず」なので、虎穴に入る勇気をもつか、虎児の獲得を諦めるかで、問題はスッキリします。

カウンセラーがすること

カウンセリングは患者さんの話を聴いて、そこにはびこる構造的な問題を把握し、客観的な目線から患者さんがどのような構造ゆえに苦しんでいるのかを相手に認識させることから始まります。
そして、その構造をどう変えていったらよいかを患者自身に導き出させる手伝いをするのです。

主体者は、患者さんです。

ですから、患者さんが楽できるカウンセリングは存在しません。
自由に話していいだけなら、患者さんは自分の思考の外には出られません。

内省力のある患者さんなら、話している内に己の過ちに気づくかもしれないけれど、大半はたまった鬱憤を晴らすだけで過ちに気づくところまで行きません。
ということは、同じ問題が起こったとき、解決方法はカウンセリングに通って愚痴を吐くこと、になります。これでは、カウンセリングから卒業できない。カウンセラーに聴いてもらうことありきの人生となってしまいます。

どんなに苦しくても自分で解決する。それが自信につながり、自立への一歩となるのです。

カウンセリングが成功するために

いいカウンセリングは、めちゃくちゃ考えなくてはいけないカウンセリングだと思います。
出来事に向いていた意識を、構造的な問題に向け、どうテコ入れしたらよいかを考える訓練を積むのです。

その訓練中、対立するものに出会えば、尚良し。
もっともっと思考を深めて、対立を包括するほど外に向かって構造を掴んでいきます。
これが自由に出来るようになれば、もうカウンセラーは必要ありません。

楽なカウンセリングは、昨日の延長の今日です。
患者さんがいっぱい考えて、「疲れた~、けど爽快!」というのがいいカウンセリングが出来た証拠ではないでしょうか。