なんでそんなに居心地悪い接客なんだ?

肉屋は、ローストビーフを作りたい客には塊肉を、すき焼きのしたい客には薄切り肉を売る。けして「牛肉ならなんでもいいよね」といった押しつけはしない。

ところが、家電店や衣料品店では、なぜか「牛肉ならなんでもいいよね」的な接客がなされている。そのせいで、居心地の悪い思いをしている人もチラホラ。

なぜ肉屋のように家電店は接客しないのだろうか?

家電店で行われていること

家電や衣料品店では、当たり前のように「何かお探しでしょうか」という言葉が使われている。

客がきょろきょろと周りを見て何かを探しているようなら、客にマッチした言葉だ。

しかしどの客も目的を持って来ているわけではない。気晴らしにウィンドウショッピングしにきた、とか、待ち合わせまでの暇つぶし、とかも考えられる。そんなとき「何かお探しでしょうか?」と声を掛けられると、何も探していないことに居心地の悪さを感じる。

「探し物がないなら出て行って」というほのめかしを前に、店の印象は降下の一方。何か買いたくなったとしてもネットや別店舗に行くだろう。

これがもし客の心理に即した言葉を選んだならば、わずかながらも店の印象が向上する。
たとえば「ゆっくりとご覧ください」
目的なく訪れても、買う予定もなくても、そこにいていい安心感がある。

探している客には「何かお探しでしょうか」、ぶらぶらしにきた客には「ゆっくりとご覧ください」。本来であれば、客の要望に合わせて言葉は変わる。

しかし、家電店・衣料品店の現場では、どんな客にも同じ言葉を使う。それってお客様を大切にしているんだろうか…。

押しつけの中に真の商売は生まれない

店員がどんな客にも同じ言葉を使うには、目的がある。

「なるべく省エネで仕事を終わらせたい」。いちいち客の要望を見抜くのは面倒だから、型を作ってかける労力を減らしたいのである。

でもお客だってそんなのすでにお見通し。労力を惜しみ、売上げだけをあげようとする店員のカモになどなりっこない。

こうしてせっかく巡ってきたチャンスがパァになる。商売の場であるにもかかわらず、ぜんぜん商売になってない。

肉屋と家電店の違い

肉屋の商売はいわずもがな肉を売ること。そして肉屋に足を運ぶ客の9割は肉を買うことを決めている。肉屋は、何か買ってもらえるという安心感から、無理に勧めたりせず、ゆったりと客の要望を待つことができる。

つまり「買ってくれないのかな」という不安や「買わせなきゃ」という焦りがないから、客のどうしたがってるかを大事にできる。

一方、家電店や衣料品店は、買うことを決めてる客は稀で、きまぐれに買ったり買わなかったり。店員は、買ってもらえるだろうかという不安から、不安を打ち消す行動にでてしまう。買わせることばかりに気をとられているので、客のどうしたがってるかなど、見ようともしない。

だが、売るモノが肉であっても家電であっても大切なのは客の意向。客は自分の要望にあう商品の提供を受ける代わりに、お金を支払う。あくまでも要望が一番なのである。

ならば、要望を叶えることをなによりも優先すべきではないか。たとえそのときは、買うという行為に至らなくても、要望を叶えようとしてくれた人への感謝の気持ちは忘れない。

もし買う気が起こったなら、まちがいなくその店に訪れるだろう。

接客の現場では丁寧さが求められている

接客の現場では、客の要望を的確に掴む力が求められている。客の見た目、振る舞い、目線の動かし方といった情報から、何を求めているのかをさらう丁寧さが売上げを左右する。

買い物は現代人にとって一つの娯楽であり、気晴らしでもある。その店に行けば「私の要望が叶えられる、こんな素敵な思いができる」、となれば足繁く通うことになるだろう。そんな愛される店が一つでも増えることを願ってやまない。

少なくとも接客で居心地の悪い思いをする人が一人でも減って欲しい。