心の傷が人生に及ぼす影響

「精神的に追い詰められたり、未来に絶望したり、といった心の傷は、身体になんらかの影響を与えるだろう」ということは、ぼんやりと想像できる。

では、実際にどういった形で影響を及ぼすのか、ご存じだろうか?

これからそれを示す例を、3つ紹介する。

「精神的なダメージはそんなに大したことないだろう」と思っていたら、大間違い。確実に、より長く、影響を与え続けるのである。

女性を不倫に走らせる

脳科学者の中野信子先生によると、

生い立ちの家庭で貧困や虐待を経験している女性は不倫のブレーキとなる大脳の新しい皮質が発達しにくい
“不倫叩き”はなぜ快感なのか? 脳科学者が解き明かす、芸能界の不思議 | 文春オンライン

脳の新しい皮質(大脳新皮質)は理性をつかさどっており、この部分が十分に発達していると、たとえ目の前に美味しそうな果実がぶら下がっていたとしても、「いや、これをもぎとるのはよくない」と自分を踏みとどまらせることができる。

反対に発達が不十分だと、後先考えず、衝動に突き動かされて、行動に出てしまう。そして相手を傷つけ、自分の窮地に追いやってしまう。

従って、貧困や虐待といった精神的なダメージにより、大脳新皮質の発達は妨げられ、人間の理性は奪いとられてしまうのである。

寿命を短くする

ハーバード大学の医学教授であるサンジブ・チョプラ医師によると

病気の子供を持つ29人の母親のテロメア(テロメアとは、靴紐の先端についているプラスチックのパイプのように、染色体の末端を保護するキャップのようなもの。細胞分裂のたびに少しずつ短くなり、一定の長さ以下になると分裂を停止して「細胞老化」という状態になる。)は、健常な子供を持つ同数の母親にくらべて短く、活性が低かった。テロメアの長さは、ストレスが特に少なかった女性にくらべて、平均10年分も短かった。

ハーバード医学教授が教える 健康の正解

多くの心配事を抱える母親は健常な子供を持つ親に比べて、最大で10年分も老けている。
心への負担は少なからず細胞に、ひいては寿命に影響を及ぼしているのだ。

対人関係を困難にする

福井大学の友田明美教授によると

幼児期に虐待ストレスを受け続けると、脳の中にある感情の中枢である扁桃体が異常に興奮し、副腎皮質にストレスホルモンを出すよう指令を出す。
過剰に分泌されたストレスホルモンは前頭葉の萎縮、聴覚野の変形、視覚野の縮小を引き起こし、感情コントロールの逸失、聞く力の低下、他人の表情を読む力の低下を引き起こし、対人関係をうまくいかなくさせる。

脳が発達する幼少期に、怒鳴り声や怒った顔に出くわすと、脳の一部が興奮して、正常な脳の発達が妨げられ、人と人の関わり合いに必要な情緒の安定や見る・聞くといった力が十分に育たず、結果として生涯にわたって、対人関係に苦労することになる。

まとめ

つまり精神的ダメージは、
大脳新皮質の発達を阻害し、テロメアを短くし、前頭葉・聴覚野・視覚野の縮小を引き起こすという身体の変化を以て、「人間の理性を奪いとり」「最大で10年老けさせ」「対人関係を困難にさせる」結果をもたらす。

単にオトコにだらしがない、とか、見た目ばババくさい、とか、コミュニケーション障害だということではなく、劣悪な環境下で現れた身体的変化により、好ましくない人物が出来上がったのである。

従って、心だったら傷つけて良いだろうとか、心の傷など大したことない、というのは、たいそう的外れで、むしろ心の傷による影響の方がより広範囲で、その人の人生に影響をもたらすのである。

たかが心の傷だろう、とあなどるなかれ、心こそが人生の幸せも不幸せも握る鍵なのである。