ひきこもりは全国で61万人に達しています。人口1000人あたり6人という割合。
その人たちが、世間と交わることができず、経済活動もできず、もがき続けているとしたら、ひじょうに残念だし、本人にとっても多大なる損失だと思います。
なぜ、引きこもりは、脱することができないのでしょう。何十年も引きこもったままになってしまうんでしょう。
一説には親が甘やかせているから、と言います。しかしあえてここでは、環境がどうというより、本人の気持ちがどうなんだ?というのを取り上げて考えたいと思います。
些細なきっかけが引きこもりの原因となる
こちらの記事に引きこもった原因が書いてあります。
- 中学校の時代にあった学校でのちょっとしたイジメ(女性 20歳未満 広島県 無職)
- 姪が引きこもっていますが、引っ越しで環境が変わって、クラスで無視されたのが原因と聞いた(男性 50代 兵庫県 会社員)
- 数年勤めた会社を人間関係が原因で離職して、精神的に落ち込んでいた(女性 40代 東京都 主婦)
- 仕事関係による自信喪失、及びそれによる他者への拒絶感(男性 40代 北海道 パート・アルバイト)
総じて言えるのは、人間関係のつまづきがあった、ということ。つまづき、とは、自分が右に行こうとすると、誰かに足を引っかけられたり、押し戻されたりすることです。
イメージしてみてください。右へ行こうとして何度も邪魔をされたら、行く気が失せませんか?
人間誰しもが、「右」に相当する「私の正しくいられる方向」を持ちます。その方向へ歩んでいる間は、アイデンティティーが保たれ、精神的に安定します。ところが、誰かの手によって、行く手を阻まれると、「私の正しくいられる方向って、これなんだろうか?」と疑念を抱き始めます。それが繰り返されて、最終的には、アイデンティティーの崩壊へとつながっていくのです。
自分を覆っていた外殻(アイデンティティー)が剥がれ落ちるとき、人はその形(自分らしさ)を保つことが難しくなり、どこか安全な場所へ逃げ込もうとします。それが、もっとも慣れ親しみ、自分のアイデンティティーを色濃く反映した空間(自室)であることは、言うまでもありません。
たった一つのつまづきで、アイデンティティーが崩壊し、自室への逃避に行き着く。
それほどまでに、つまづきというのは人の振る舞いをダイナミックに変えてしまう出来事なんです。
引きこもりへの対処概要
ですから、周囲はたったこれくらいのことで、とは思わない方がいい。むしろ、こんなに大変なことがあったから、くらいのニュアンスで受け取るといいと思います。
引きこもりが生まれる理由の一つは、この「つまづき」に対する本人と周囲の理解不足があると私は考えます。大したことないと深刻な心の傷から目を逸らし続けていては、いつまでたっても流れ出る血を止めることはできません。
どこが傷つき、どこをどう処置すればいいか、が掴めれば、立ち直る日はそう遠くないはず。ふたたびアイデンティティーを手にできるよう、周囲は「あなたのままでいい」というメッセージを送り続けてみるのです。
そうすれば、一人一人に備わる再生力が起動し始めます。
引きこもりへの具体策
などと説明すると、なぜか、子供に同情したり、わざとらしく褒めたりする親御さんが出てくるのですが、これは見当違いです。アイデンティティーは、誰かに賛同されたり、賞賛されて形作られるものではありません。むしろ、ジャッジを挟まない、そのままを見てあげること、で形作られるます。
たとえば引きこもりの子が少しは手伝いたいと新聞をまとめるのに手を貸してくれたとします。だいたいの場合、「手を貸してくれてありがとう。助かったわ。」といった親目線の感謝を述べるに留まります。では、子供の「そのまま」とはこの場合何なんでしょう?
ふとリビングに立ち寄ってみると、親が新聞をまとめている。なんか手がいるかな?と思ったから、新聞がばらけないように手で押さえた。意識的は、それだけのことです。ここで「そのまま」として受け取るにふさわしいのは、我が子が「なんか手がいるかな?」と思ったこと。
その思ったことそのものを受け止める・後押ししてやると、思ったことそのものが肯定される体験を経て、子のアイデンティティーが固まり始めます。
具体的には、「手を貸そうとしてくれて嬉しかったわ。ありがとう。」
これが前者と何が違うか、といえば、前者は【行動】に目を向けてるのに対して、後者は【意図・意思】に目を向けていることです。子供が「こうしよう!」と思ったことを、親が嬉しがったり、感謝したりしてくれれば、心の底からやってよかった!という喜びが湧いてきます。一つ一つはものすごい小さな事でも、行こうとした方向に誰かが「正しいよ!」と後押しされることで、とてつもない安心感に包まれるのです。
引きこもりが長引く理由
このようなプロセスをどれだけの人が理解しているでしょうか?【意思・意図】に目を向ければ、本人の再生力が起動しはじめること、をどれだけの人が知っているでしょうか?
みんなが知らないから、引きこもりは長引くのだと思います。百戦錬磨で生き抜いてきた親でさえも、弱い者、弱っている者のよみがえらせ方、活かし方を知らない。発破をかけたり、おだててみたり、褒めてみたり、叱ってみたり…、見当違いのことを繰り返している。
本当にもったいない。我が子を思う気持ちはあふれんばかりにあるのに、その気持ちを伝える手段を持たぬが故に、親子共々無為に時を過ごしてしまっているなんて。
私は普段引きこもりの方をカウンセリングしないので、この考えがどこまで有効かは、分かりません。ただ、引きこもりであっても、なくても、同じ人間ですから、後押ししてくれる言葉の効能に違いはないと信じています。
引きこもりの問題に頭を痛めている親御さんがいたら、とにかく【意思・意図】に目を向けてみてください。試してみる価値はあると思います。